大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和44年(あ)1421号 決定 1970年9月04日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人大谷正雄本人の上告趣意(二通とも)は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

弁護人星野民雄の上告趣意第一点は、事実誤認の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

同第二点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書は、その文書によって表示された意識内容にもとづく効果が、代表もしくは代理された本人に帰属する形式のものであるから、その名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である(明治四二年六月一〇日大審院判決、判決録一五輯七三八頁参照)。ところで、原判決の是認した第一審判決は、その罪となる事実の第一として、昭和三八年八月六日に開かれた学校法人鴻城義塾理事会は、議案のうち、理事任免および理事長選任に関する件については結論が出ないまま解散したもので、被告人大谷正雄を理事長に選任したり、同被告人に、理事署名人として当日の理事会議事録を作成する権限を付与する旨の決議もなされなかったのにかかわらず、被告人らは、行使の目的をもって、理事会決議録と題し、同日山口県鴻城高等学校理科室で行なわれた理事会において、被告人大谷正雄を理事長に選任し、かつ、同被告人を議事録署名人とすることを可決したなどと記載し、その末尾に、理事録署名人大谷正雄と記載し、その名下に被告人大谷正雄の印を押し、もって、同被告人において権限のなかった理事会議事録について署名人の資格を冒用し、理事会議事録署名人作成名義の理事会決議録なる文書を偽造したと認定判示しているのである。そして、右理事会決議録なる文書は、その内容体裁などからみて、学校法人鴻城義塾理事会の議事録として作成されたものと認められ、また、理事録署名人という記載は、普通人をして、同理事会を代表するものと誤信させるに足りる資格の表示と認められるのであるから、被告人らは、同理事会の代表者または代理人として同理事会の議事録を作成する権限がないのに、普通人をして、同理事会を代表するものと誤信させるに足りる理事録署名人という資格を冒用して、同理事会名義の文書を偽造したものというべきである。したがって、前記のとおり、これを理事会議事録署名人作成名義の文書を偽造したものとした第一審判決およびこれを是認した原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。

また、右のような、いわゆる代表名義を冒用して本人名義の文書を偽造した場合において、これを、刑法一五九条一項の他人の印章もしくは署名を使用していたものとするためには、その文書自体に、当該本人の印章もしくは署名が使用されていなければならないわけである。ところが、原判決の是認した第一審判決は、前記のとおり認定判示しているだけで、学校法人鴻城義塾理事会の印章もしくは署名が使用されたとのことは判示していないのである。しかも、記録をみても、前記理事会決議録なる文書に、右の印章や署名が使用されていたと認むべき証跡は存在しない。そうすると、前記罪となる事実を同条項に問擬した第一審判決およびこれを是認した原判決は、法令の解釈適用を誤ったものというほかはない。

しかし、前記罪となる事実は、同条三項に該当するものであり、また、このほかにも同条一項に該当する罪が存在し、処断刑にも変わりがないから、右の違法はいまだ判決に影響を及ぼすものとは認められない。

同第三点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、上告適法の理由にあたらない。

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例